雪降る「しただ」と本物の静寂

本物の静寂は美しい。

あなたの周りに本物の静寂はありますか。
ここ新潟県三条市しただ地域の暮らしにはそれがあります。

28歳。移住前は京都市でインテリア雑貨店の販売員。二年半働いて、少し疲れて辞めました。次で転職は4回目。今後の人生への不安と、休みたい心の二つを抱えて、次のキャリアを決めかねていたそんな時、「しただ塾」という滞在型職業訓練のお知らせを目にします。これはしただ地域に三ヶ月間仮住まいして、地方の暮らしを経験するというもの。どうせ失業保険が出るまで同じく三ヶ月あります。「転職活動の合間に冬のバカンスといこうじゃないか」と軽い気持ちでやってきました。普通免許もないのに。

夜行バスに8時間乗ると世界が変わる。やってきた雪の国はまるで絵本の世界。白い白い白い。朝起きて、道路を歩きながら近所の屋根につららが垂れているのを眺めます。今までの人生で「つらら」なんて言葉を実際に口にしたことがあっただろうか。

貸してもらったシェアハウスには広い庭があって、花梨の木があります。実はそのままじゃ食べられないらしい。勝手にもらっていいそうなので、ぼたぼた地面に落ちている花梨をはちみつ漬けにすることにしました。喉に良く、風邪予防になるらしい。

庭の裏をずんずん進むと、除雪車もやってこない道に出る。あるのはおそらく空き家と、夏は畑なのかもしれない土地。少し先に山。足元は見渡す限り白くて、来た道に自分の長靴の跡が深く刻まれている。僅かな時間だけ雪がやんで、空に雲が流れるのが見える。夕空は灰色ではなくて珍しくピンクと水色。誰もいないし、何も聞こえない。しばらくしたら、どこからともなく赤とんぼのメロディが流れて、また静かになった。ただ棒立ちで息だけする。

そういえば三ヶ月前は24時間やっているコンビニが家から歩いて30秒のところにあった。スーパーも5分圏内に3つあったし、映画館も百貨店も遊ぶ場所も自転車で回れて、京都市だったので世界遺産もすぐそばにあった。東京や大阪での大都会の暮らしは知らないけれど、必要なものは全てあった。幹線道路すぐそばのマンションの6畳の小さな部屋で、喧騒と隣合わせだった。

しばらくしたらまた吹雪いてきたので来た道を帰る。途中で雪に仰向けにダイブして、雪を顔面で受け止める。背中が冷たくて、寒いけど気持ちがいい。見るものや触れるものが美しいと感じる。映画館も百貨店も遊ぶ場所も世界遺産もすぐそばにないし、景色は白一色なのに、自分は以前より鮮やかになった。

夜行バスに8時間乗ると世界だけでなく自分も変わる。本物の静寂を感じたことはありますか。経験しませんか。

profile / i 28歳
しただ塾4期生の撮影記録係

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